裁量労働制
2018年07月30日(月)
先日まで開かれていた国会で話題となった「裁量労働制」。
改めて裁量労働制とは何か確認していきましょう。
裁量労働制とは、労働時間管理の仕組みの一つです。
業務の遂行を労働者の裁量にゆだねる必要があり、使用者の具体的な指揮監督が及ばないような特定の業務について、労働時間を実労働時間ではなく、「みなし」で計算する制度です。
裁量労働制には、「専門業務型」と「企画業務型」があります。
それぞれの内容を確認してみましょう。
○専門業務型裁量労働制
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
・対象業務
対象となるのは、次の19業務に限られます。
1.新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2.情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
3.新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
4.衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5.放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6.コピーライターの業務
7.システムコンサルタントの業務
8.インテリアコーディネーターの業務
9.ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10.証券アナリストの業務
11.金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12.学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
13.公認会計士の業務
14.弁護士の業務
15.建築士の業務
16.不動産鑑定士の業務
17.弁理士の業務
18.税理士の業務
19.中小企業診断士の業務
・導入のための手続き
次の事項を労使協定により定めた上で、所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
1.制度の対象となる業務
2.対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
3.1日当たりの労働時間としてみなす時間
4.対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
5.対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
6.協定の有効期間
7.4,5に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
○企画業務型裁量労働制
事業の運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象として、その事業場の労使委員会で決議した時間を労働時間とみなす制度です。
・対象業務
対象となるのは次のような業務です。
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務
・導入できる事業場
「対象業務が存在する事業場」に限られ、具体的には次の事業場です。
1.本社・本店である事業場
2.1のほか、次のいずれかに掲げる事業場
(1)当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
(2)本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場
・対象労働者
次のいずれにも当てはまる労働者が対象です。
1.対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者
2.対象業務に常態として従事している労働者
・導入のための手続き
1.労使委員会を設置する
2.労使委員会で次の事項を決議する
(1)対象業務
(2)対象労働者の範囲
(3)みなし労働時間
(4)対象労働者の健康・福祉確保の措置
(5)対象労働者の苦情処理の措置
(6)労働者の同意を得なければならない旨及びその手続き、不同意労働者に不利益取扱いをしてはならない旨
3.労働基準監督署に決議を届け出る
4.対象労働者の同意を得る
5.制度を実施する
※2の決議から6ヵ月以内に1回、定期報告が必要です。
以上のように、裁量労働制の導入には厳しいルールが設けられています。
「うちの会社でもやろうかな」と思って、すぐにできるものではありません。
この裁量労働制の対象となる労働者の範囲を広げようという動きがあります。
「働き方改革」のために必要と考えられているからです。
この動きに対して、「残業代を払わないで、働かせ放題となる」「ブラック企業の温床となる」という反対の声も強いです。
今後、また裁量労働の対象労働者拡大という話は出てくることでしょう。
もしそうなった場合には、適切に運用し、会社にとっても労働者にとっても「制度を導入してよかった」と言える結果にしていきたいものです。
過去のブログ
【2018年7月24日】社会保険に加入する人とは?
【2018年7月13日】働き方改革関連法案が参議院で可決、成立
【2018年6月27日】労働基準監督年報と労務行政の動き
【2018年6月8日】日本生産性本部『2018年度 新入社員 春の意識調査』
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社会保険労務士 板垣ゆりか