働き方改革 本当のねらいとは
ニュース等でも話題になっている『働き方改革』。
その本当のねらいは何でしょうか。
もしかしたら、「長時間労働を減らすことで、過労死を防ぐ」「ワークライフバランスを大切にして、楽しい人生を送れるようにする」と思っている方いらっしゃるかもしれません。
■働き方改革が待ったなしの”本当の理由”
どうして政府はこんなに働き方改革を推し進めているのでしょうか。理由はシンプル、『労働者の働き方を変えなければ、日本経済そのものが成り立たなくなるから』です。
日本では、世界でも類を見ない急激な少子高齢化が進み、労働力人口も減少の一途。既にその影響が出始めています。
人手不足、営業時間の短縮、サービスの低下、事業の縮小・廃止、人件費の高騰、長時間労働→生産性の低下、健康被害の発生などです。
既にそれを感じている方も多くいらっしゃることでしょう。
すべてがからんだ負のスパイラルとなって日本経済を低下させていく前に、業務の効率化、労働時間や無駄な残業の減少、生産性の向上、多様な人材の登用、高度な能力や技術の活用、国際化に対応するなどしていく必要があります。
そのための方法を総称したものが、待ったなしの『働き方改革』です。
ニュースなどでは、そのひとつひとつの施策ばかりが取り上げられていますが、それは枝葉といえるかもしれません。
でも働き方や休み方をどんなに法律で整えても、人が動かなければ何も変わりません。未来は、いまの自身の選択の積み重ねの結果。
自分で考え、判断し、選択して行動する、自分自身がそうなるだけでなく、さらに次の人材を育てていくことが必要となってきています。
法の内容、改正はいつから?
『働き方改革関連法』といっても、働き方改革関連法という法律があるわけではありません。
関連する様々な法律の総称として『働き方改革関連法』という言葉が使われているわけですが、具体的に、どの法律でどのような改正が行われるのかを見ていきましょう。
働き方改革関連法
雇用対策法 2018年7月6日施行
働き方改革に係る、基本的な考え方を明らかにしています。
労働基準法・労働安全衛生法 一部を除き2019年4月1日施行
●時間外労働の上限規制の導入(中小企業のみ2020年4月1日)
●中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し(2023年4月1日)
●一定日数の年次有給休暇の確実な取得
●労働時間の状況把握の実効性確保(管理監督者を含めた、労働時間の状況把握)
●フレックスタイム制の見直し
●高度プロフェッショナル制度の創設
労働時間等設定改善法 2019年4月1日施行
●勤務間インターバル制度の普及促進
●企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取り組み促進
労働安全衛生法等 2019年4月1日施行
●産業医・産業保健機能の強化・・・事業主から衛生委員会へのの報告義務や、事業主から産業医への情報提供義務など
パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法 2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)
●パート労働者、有期雇用労働者に関する、同一企業内おける正規雇用労働者との不合理な待遇差の禁止。個々の待遇ごとに、その待遇(例えば住宅手当など)の性質、目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき、と明確化。
●有期雇用労働者について、正規雇用労働者と(1)職務内容(2)職務内容・配置の変更範囲が同一である、という場合に均等待遇の確保を義務化。
●パート労働者、有期雇用労働者、派遣労働者について、正規雇用労働者との『待遇差の内容・理由に関する説明』を義務化。
行政による履行確保措置および裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備 2020年4月1日施行
たくさんの法律の改正が予定されています。
既に残業時間の上限や有給休暇取得の義務化、高度プロフェッショナル制度などはニュースで取り上げられることも増えてきましたが、対応や確認を急ぐべきものはいくつもあります。
本当に「待ったなし」となりそうです。
時間外労働の上限規制
平成31年(2019年)4月1日より、時間外労働の上限規制が始まります。
時間外労働の上限(原則)
原則として月45時間、年間360時間、臨時的な特別な事情がなければこれを超えることはできません。(月45時間は、1日当たり2時間程度の残業に相当します。)
臨時的な特別な事情(例外)
たとえ『臨時的な特別な事情」があって、労使が合意する場合でも、
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む) を超えることはできません。
原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までです。
また『臨時的な特別な事情』の内容にも注意が必要です。
罰則
今までにも上限規制があったイメージがあるかもしれませんが、実際には目安にすぎず、『法律』で規制されていたわけではありませんでした。
今回『法律』となることで、罰則が適用されることになります。
残業時間の上限を法律で規制することは、70年前(1947年)に制定された労働基準法において、初めての大改革だそうです。
適用猶予・除外される事業・業務
ただし、事業・業務によっては、労働時間上限規制の適用を猶予されたり、除外されるものがあります。
中小企業の事情に配慮
当分の間は中小企業における労働時間の動向、人材確保の状況、取引の実態等(取引環境の改善など)も配慮しつつ、行政官庁から中小事業主への助言・指導が行われることになります。
とはいえ、上限規制の水準にできる限り近づけていくことが求められることになりそうです。
年次有給休暇の時季指定義務
平成31年(2019年)4月1日より、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、そのうち5日間は、使用者は付与の基準日から1年以内の期間に、時季を定めることにより与えなければなりません。
有給休暇の発生要件
労働基準法では、労働者の心身リフレッシュを図ること目的して、一定要件を満たす労働者に対し、毎年一定日数の年次有給休暇を与えることと規定しています。
・6カ月間継続勤務
・全労働日の8割以上出勤
・継続または分割した10労働日の有給休暇を付与 (勤続年数により、一定の付与日数が加算されます)
これは、法律上、当然に労働者に発生する権利です。
また、週所定労働時間30時間未満、年間労働日数216日以下または週4日以下、の労働者(パート労働者など)についても、その労働日数に応じた日数の有給休暇が付与されます。
取得の義務化
年次有給休暇の取得は、職場への配慮やためらい等の理由から取得率が低調なのが現状です。
そこで労働基準法が改正され、平成31年(2019年)4月1日から、全ての企業において、年 10 日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、うち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務化されました。
ただ、すでに労働者が5日以上取得している場合は、使用者に義務は課されません。
しかし、付与の基準日から1年以内の期間、という期間指定があることにも注意が必要です。
例えば、今年度1日も取得していない労働者がいた場合、次年度の付与日まで間近であっても、急遽取らせないと違法になりかねません。
既に「わが社では、全員がほぼすべて取得している」という企業であれば対策は不要かもしれませんが、そうでない場合は対策が必要です。
計画的付与
上記のような場合の対策として、「計画的付与」という方法があります。
有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与えることとされていますが、労働者が保有する年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、労使協定により、使用者があらかじめ時季を指定して取得させることもできる、というものです。
年間カレンダー作成時に長期休暇の日数を増やす、毎年誕生日前後に休暇を与えるなど、あらかじめ計画することができます。
有給休暇管理簿の作成
まず、ひとりひとりに何日有給休暇が発生しているのかを正しく把握しなければなりません。
そのため、有給休暇管理簿を作成し、3年間保存することが義務付けられました(労働基準法施行規則)。
有給休暇の取得が義務になる、ということは、労働者にとっては気になることだと思われます。
社員から「どうなっているのですか?」と聞かれる前に、きちんと対応できるように整えておきたいものですね。
中小企業の時間外労働割増賃金率アップ 猶予措置廃止
1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計していき、60時間を超える時間外労働に対しては、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
中小企業への施行猶予の廃止決定
この改正は、中小企業においてはまだ施行を猶予されていました。
時間外労働抑制のための業務処理体制の見直し、新規雇入れ、省力化投資等の速やかな対応が困難であり、やむを得ず時間外労働を行わせた場合の経済的負担も大きいと考えられていたためです。
しかしこのたび、平成35年(2023年)4月1日から、猶予が廃止されることとなりました。
平成22年に決定したものが、中小企業に対しては「速やかな対応が困難」「経済的負担が大きい」ことから、その対策・準備のために猶予されていたと考えると、いざ施行されてから「聞いてない!」というわけにはいかないでしょう。
就業規則への記載
1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率及び1か月の起算日については、労働基準法に定める絶対的必要記載事項なので、就業規則に規定する必要があります。
時間外労働と法定休日
『1か月60時間超の時間外労働』の算定には、法定休日に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日に行った時間外労働は含まれるからです。
とはいえ「法定休日とそれ以外の休日は違う」と言われても、どちらも同じ「おやすみ」ですから、違いを明確に定めてもらわないとわかりません。
労働条件を明示する観点や割増賃金の計算を簡便にする観点からいうと、就業規則において、法定休日とそれ以外の休日を明確に分けておくことが望ましいものです。
深夜残業に対する割増賃金
深夜(22:00~5:00)の時間帯に対する割増賃金は25%です。
したがって、月60時間を超える時間外労働を、深夜(22:00~5:00)の時間帯に行わせた場合の割増賃金率は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。
フレックスタイム制の改正
2019年4月1日より、変形労働時間制のひとつであるフレックスタイム制が改正されます。
変形労働時間制とは
繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑や特殊性に応じて、労使が工夫しながら労働時間の配分等を行い、これによって全体としての労働時間の短縮を図ろうとするものです。
フレックスタイム制とは
1か月以内の一定期間における総労働時間をあらかじめ定めておいたうえで、労働者がその範囲内で各日の始業時刻及び終業時刻を設定できる制度です。労働者は生活と業務の調和を図りながら効率的に働くことができ、労働時間の短縮を図ることができます。
フレックスタイム制の改正内容
改正されるのは次の3点です。
・労働時間の清算期間の上限が、1ヵ月から3ヵ月に延長される。
・清算期間の上限は延長されるが、各月で週平均50時間を超えた場合は、使用者はその各月で割増賃金を支払う。
・労使協定が締結のみではなく、労働基準監督署への届出が必要となる。
就業規則で定めるべきこと
始業及び終業の時刻を、その労働者の決定にゆだねる旨を定めてください。
高度プロフェッショナル制度
平成31年(2019年)4月1日より、労働基準法が改正され、高度プロフェッショナル制度が創設されます。
働き方改革の目的のひとつである、「多様で柔軟な働き方の実現」のための新たな制度です。
経済界からの様々な意見も多く、具体的な業種や年収など引き続き検討が続けられることが予想されています。
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度とは、
『自律的で創造的な働き方を希望する方々が、高い収入を確保しながら、メリハリのある働き方をできるよう、本人の希望に応じた自由な働き方の選択肢を用意する』
という目的で創設されるものです。
健康の確保
とはいえ、長時間労働を強いられることのないような仕組みになる予定です。
(1)制度導入の際には、法律に定める企業内手続きが必要
・労使委員会で、対象業務、対象労働者、健康確保措置などを5分の4以上の多数で決議すること。
・書面による本人の同意を得ること。同意の撤回も可能。
(2)高い交渉能力を有する高度専門職については、その働き方に合った健康確保のための新たな規制の枠組みを設ける。
・年間104日、4週4日以上の休日確保の義務付け
・その他、いずれかの健康確保措置の義務付け
インターバル規制、在社時間等の上限の設定、1年につき2週間連続の休暇取得、臨時の健康診断の実施など
・在社時間が一定時間を超えた労働者に対して、医師による面接指導を実施(義務、罰則付き)
対象者の限定
制度の対象者は、高度な専門的知識を持ち、高い年収を得ている、ごく限定的な少数の方々です。
(1)対象は高度専門職のみで、従事した時間と成果との関連が高くない業務
例:金融商品の開発業務、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務など
(2)対象は、希望者のみ
(3)対象は高所得者のみ
年収が、「労働者の平均給与額の3倍」を「相当程度上回る水準」以上の方。1075万円以上を想定。
「残業代がゼロになる!」とばかりにニュースで取り上げられることも多いこの制度。
しかし実際のところは、職種や所得層がかなり限定されることや、厳しい運用が求められることから、対象者は『ごく限定的な少数の方々』と公表されているとおり、一般的な労働者が適用されることは少ない制度と言えるでしょう。
労働時間 管理職にも把握の義務化
2019年4月から、管理職の者についても、労働時間を把握することが企業に義務付けられます。
今まで把握する体制となっていなかった企業にとっては、対応を迫られることになるでしょう。
経緯
労働基準法では、労働時間、休憩及び休日に関する規定は、管理監督者については適用しない(適用除外)とされています。
世間でよく『管理職には残業手当がつかない』と言われるのは、これを基にしているわけです(実際は細かい決まりがあり、一概にそうは言えないのですが)。
そのため、管理職の労働時間をきちんと把握できる体制になっていない、把握しようとしてこなかった、という企業もあるかもしれません。
ところが!
2019年4月より、「労働基準法」ではなく「労働安全衛生法」という法律が改正されることによって、管理職についても労働時間の把握が義務化されることになりました。
労働安全衛生法、施行規則の改正
では、何が変わったのでしょうか。
・過重労働により脳・心臓疾患等の発症リスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、労働者の健康管理強化する
・1週間あたり40時間を超えて労働し、時間外、休日労働時間が月80時間超かつ労働者から申出があった場合は、医師の面接指導の対象となる(管理職を含む)
・事業者は、超えた労働時間の算定を行ったときは、その労働者に、超えた時間についての情報を通知する
(一部要約)
つまり、働きすぎによる病気を防ぎたい → 働きすぎの社員は医師の面接指導を受けること → ところで働きすぎの社員って誰? → まず社員の労働時間を把握しなくちゃ! という流れです。
労働時間把握の方法
では実際にどのような方法をとるべきなのでしょうか。
管理職を含めて、労働時間を把握するための方法は、以下のように定められました。
・タイムカードによる記録、パソコンなどの機器のログイン~ログアウトの時間などの客観的な方法
・その他、適切な方法
「客観的」という言葉がポイントです。
働く人々を守るための改正ですから、形だけではなく実効力が問われることになるでしょう。
また、この記録は3年間保存しなければなりません。
勤務間インターバル制度
2019年4月1日より、「1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に、一定時間の休息時間を確保すること」が努力義務となります。いわゆる『勤務間インターバル制度』というものです。
働き方改革に関連して、労働時間等設定改善法という法律の改正によって、このように変わることになりました。
目的・内容
目的は、労働者の十分な生活時間や睡眠時間を確保するためです。
事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければなりません。
休息時間は、「一定時間」となっていますが、これに関連する助成金では、成果目標の設定として
『休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入すること』とありますから、少なくとも9時間以上の休息時間が想定されていると考えられます。
『11時間』のナゾ
ところで、なぜ勤務終了後~次の日の出社までの時間に「11時間」という数字が出てくるのか考えてみました。
そのときにおさえておきたいのは、平成31年(2019年)4月1日より、時間外労働の上限規制が始まる、ということです。
これにより、例外として臨時的で特別な事情があったとしても、時間外労働は複数月平均80時間以内でなければなりません。
(例)週休2日制、1ヵ月の所定労働日数20日の場合
時間外労働が月80時間、1ヵ月の労働日数が20日なら、1日あたりの時間外労働は80÷20=4時間が限度です。
1日24時間 ー 所定労働時間8時間 ー 休憩1時間 ー 時間外労働4時間 = 11時間
ということは、計算上、次の勤務まで11時間以上ないと『時間外労働 月80時間以内』は達成しませんよね。
また、平成28年社会生活基本調査を見ると、睡眠+食事+身の回りのこと+通勤=11時間強、となっています。
11時間必要、というのは実際の生活においても平均的と言えるのかもしれません。
誰にとっても、1日は24時間しかありません。
勤務間インターバル制度は努力義務ではありますが、時間外労働の上限規制が始まることを考えると、必然的に考えざるを得ないことかもしれません。
そこでどうするか?
これを達成する方法のひとつとして活用が検討されているのが変形労働時間制、中でもフレックスタイム制度。
ただし、導入には制度の理解、社内の体制や就業規則、労使協定などの整備も必要となります。
面接指導、産業医・産業保健機能の強化
2019年(平成31年)4月1日より、医師による面接指導、産業医・産業保健機能が強化されます。・・・と言われても、何のことだかよくわかりませんね。
背景・目的
働きすぎによって脳・心臓疾患等の発症リスクが高い状況にある人を見逃さないためには、ひとりひとりの健康管理を強化する必要があります。そのため、働き方改革では単に長時間労働を規制するだけでなく、労働者の心身の健康を確保するためのいろいろな改正が行われます。そのうちの一つが、この労働安全衛生法等の改正です。
内容
例えば「健康診断で二次検診の通知が来たけど、時間がないし(面倒だし?)、たぶん大丈夫だから」と放置している人は身近にいませんか?
心のどこかで健康が気になっていても、なんとなく見ないふりをする、強制されないと行きづらい、行かせづらいのが人間というものかもしれません。でも、何時間残業しているかもわからない、健康管理もできていない、会社も労働者本人もお互いにそれを放置していては状況は変わりませんよね。
今回の改正では、労働時間に上限を設ける、そのために労働時間をきちんと把握することのほか、
・働きすぎ(または働きすぎが懸念される)一定の労働者には医師による面接指導を受けさせる
・会社と産業医等が情報提供などを通して連携する
などが定められます。以下、一部抜粋します。
医師による面接指導
現在:時間外労働月100時間 または 2~6カ月平均80時間 + 申出
改正後:1か月あたり 80 時間超 + 申出
(研究開発者、高度プロフェッショナルの場合は月100時間以上、申出不要)
※違反事業主には罰則あり
産業医が具体的にできるようになること
・産業医から、事業者や総括安全衛生管理者に意見を述べること。
・産業医は、康管理などを実施するために、必要な情報を収集すること。
・産業医は、労働者の健康確保のために緊急の必要がある場合は、労働者に対して必要な指示ができること。
など
産業医が活動しやすい環境づくり
・事業者は、産業医から受けた勧告の内容を衛生委員会に報告しなければならない。
・産業保健業務を適切に行うために、事業者から産業医へ、必要な情報を提供しなければならない。
・事業主は、産業医等が労働者から健康相談を受けたりしやすい体制等を整えるよう努力すること。
など
労働者の心身のトラブル発生までや、復調~勤務復帰後の過程において、会社と医師との連携はとても重要です。今回の改正では、会社と医師(産業医)との連携を実効性のあるものにするための体制づくりも求められています。
同一労働同一賃金 法改正と改正時期
働き方改革の中でも、大きな改革の一つが「同一労働同一賃金」ではないでしょうか。
同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消が目的です。
(不合理な待遇差の禁止に関する法改正は、パートタイム労働法・労働契約法は2019年4月1日(中小企業はその1年後)、労働者派遣法は企業規模にかかわらず2019年4月1日からです)
同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取組を通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにする、ということを目指しています。
具体的な内容としては、次のものが挙げられます。
不合理な待遇差をなくすための規定の整備
(1)パートタイム労働者・有期雇用労働者
○均衡待遇規定の明確化
それぞれの待遇ごとに、待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。
※待遇とは、基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生、教育訓練など
○均等待遇規定
「職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は差別的取り扱い禁止」という規定の対象を、パートタイム労働者のみでなく、有期雇用労働者も対象とする。
○待遇ごとに判断することを明確化し、ガイドラインの策定などによって規定の解釈を明確に示す。
(2)派遣労働者
○次のいずれかを確保することを義務化
1、派検索の労働者との均等・均衡待遇
2、一定の要件を満たす労使協定による待遇
○派遣先事業主に、派遣元事業主が上記を順守できるよう派遣料金の額の配慮義務を創設。
○ガイドライン(指針)の策定
労働者に対する、待遇に関する説明義務を強化
事業主が労働者に対して説明しなければならない内容を、パート・有期・派遣で統一的に整備する。
行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定を整備
行政による助言・指導等や行政ADRの規定をパート・有期・派遣で統一的に整備する。
不合理な待遇差の解消
同一労働同一賃金は、同一企業・団体における、いわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の『不合理な待遇差の解消』が目的です。では、『不合理な待遇差』とはなんでしょうか? これを理解するポイントに、『均等待遇』と『均衡待遇』という言葉があります。
均等待遇
『均等待遇』とは、等しい待遇であることです。
例えば、運輸業ドライバーの無事故手当。毎月同じ日数、同じ時間勤務しているのに、社員の契約形態によって無事故手当の「有無」が左右されたら、不公平と感じたり、腑に落ちない気がしませんか? 通勤手当の場合で、同じ経路を通っている社員同士で手当額に差をつけられたら、なんで?と思いますよね。 これらの待遇差は不合理とされる判決が出ています。その他、均等待遇とすべきものは社員の契約形態による差別的な待遇差があってはいけない、ということです。
均衡待遇
それに対し、『均衡待遇』とはバランスのとれた待遇であることです。
能力や資格、仕事の内容、負うべき責任、全国転勤の可能性など、個別に違いがあるものに対して差を設けることは不合理ではありません。逆に同じであるほうが納得できない可能性もあります。また、転勤が予定されている社員(住宅コスト高)と勤務地限定社員(住宅コスト低)とで、住宅手当額に差があることも不合理ではない、とされています。
重要なのは、『基準が明確』であることです。”なんとなく差がある”ではなく、手当や制度のできた経緯、趣旨、違いの理由をきちんと説明できることが大切です。住宅手当という名前だからどうこうではなく、裁判では個別案件ごとに判断される傾向が強まっています。
なお、「非正規雇用労働者」には、パート、有期雇用、派遣などの働き方をする労働者が含まれます。それぞれの働き方により、どのような規定や配慮などを必要とするかが異なりますので、それぞれについて確認したほうがよいでしょう。
従業員のみなさんに、きちんと説明をして納得して働いてもらう体制づくりが急務です。まずは自社の就業規則や賃金規定に不合理な待遇差がないか、従業員に説明できる状態になっているか、確認したいですね。
労働者への説明義務
パートタイム労働法・労働契約法が2019年4月1日(中小企業はその1年後)、労働者派遣法は企業規模にかかわらず2019年4月1日から改正されます。
不合理な待遇差の解消
先日の当ブログでも、改正内容である『不合理な待遇差の解消』とは何か、それを読み解くキーワード『均等待遇』と『均衡待遇』についてご説明しました。差別的な取り扱いや、不合理な待遇差を解消するのはもちろん、「待遇差の基準が明確であること」「従業員にきちんと内容や理由が説明できること」が大切、と書きました。
待遇について説明する義務等
その事業者が労働者に対してするべき『説明』についても、内容などが新たに定められます。
(1)有期雇用労働者へ、本人の待遇内容、待遇決定に際して考慮したことを説明する義務
(2)パート・有期雇用・派遣労働者へ、正規雇用労働者との待遇差の内容や理由などを説明する義務(ただし、説明を求められた場合)
(3)説明を求めた人に対して、不利益な取り扱いの禁止(例えばイジメや左遷など)
「正社員とパートとで、福利厚生は何が違うんですか?」「どうしてパートには住宅手当がないんですか?」など、求められたら説明しなくてはなりません。待遇に差がある場合には、その理由=答えを持っておいたほうがよいでしょう。
相手と向き合う
余談ですが、育児をしていると子どもから「なんで?どうして?」と聞かれることはよくあります。聞かれてついごまかしてしまうのは、答えは知っているけど答えるのが面倒、もしくは答えを知らなくて答えられない、のどちらかが多い気がしませんか?
そして「そんなこと、子どもは知らなくていい」とか「そういうものだから」などと言ってしまうのは、相手を子どもだとみくびって、きちんと向き合っていないからかもしれません。さて、大人の社会ではどうでしょうか。
大人の社会でも「パートだから」「有期雇用だから」などと、相手との関係性の中で少々雑に取り扱ってきた部分がごまかしきれなくなってきました。労働力人口の減少、人手不足が叫ばれる昨今だからこそ、人材は重要です。少なくとも、労働者から「あの会社はきちんと私たちと向き合ってくれない」という評価をされるのは、決してよいことではありません。
行政ADRとは
行政ADRというのはご存知でしょうか。
行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する手続きのことをいいます。
今回の働き方改革で、行政による事業主への助言・指導等や行政ADRの規定が整備されました。
パート、有期、派遣労働者における、不合理な待遇差や労働者に対する待遇に関する説明について、行政による履行確保措置及び行政ADRの対象とする、というものです。
労働者が行政を通じて会社に不満を訴えられる環境はどんどん整っています。
何をしなければならないかきちんと理解して、会社の体制を整備しておく必要があります。
36協定の新書式 特別条項と上限規制
2019年4月1日(中小企業では2020年4月1日)より、時間外労働(いわゆる残業)の時間数の上限について、規制が強化されます。
36協定と特別条項
労働時間を延長したり休日労働をすることは、労働基準法36条に定められている協定(いわゆる『36協定』)を定め、それを労働基準監督署に届け出ることにより適法となります。
これまでは、この36協定の中の「特別条項(簡単にいうと、特別な事情があれば残業させることができる)」というものにより、残業時間数は事実上青天井状態でした。
しかし今回の改正によりその時間数に上限が定められ、また特別条項を付ける場合にも、内容が厳しく確認されます。
法改正
原則:時間外労働の上限について、月45時間、年360時間
例外:臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間(休日労働を含む)を限度に設定。なお、原則である月45時間を超えられるのは、年間6カ月まで。
特別条項については、以前は例えば「経理部の決算時期」や「小売店の年末年始」などの繁忙を理由とすることができましたが、改正後はできません。なぜなら、経理部の決算や小売店の年末年始の繁忙は例年のこと=予測可能、つまり「臨時的な特別な事情」ではないからです。(ならば何が「臨時的な特別な事情」に当たるかというと、例えばサーバーが攻撃を受けたとか、そのくらい想定外の出来事が該当するようです。)
年間を通した計画と、適正な労働時間配分が求められます。年度末になって、「もう今年は6カ月以上オーバーしてるから、月45時間を超えられない!」となる可能性は大いにあります。
これから何をすべきか
では、法改正までに何をすればよいのでしょうか。自社の36協定の内容確認、実際の労働状況の確認、業務と労働時間の年間計画などから考える必要があるでしょう。
業務の流れなど、全体を考えるには時間がかかりそうです。一部業種(自動車運転の業務、建設事業、医師など)には適用の猶予期間がありますが、それも5年後までです。新技術や新商品の研究開発業務も適用除外となりますが、一定の条件があります。
