「働き方改革」と「同一労働同一賃金」
働き方改革の関連法が次々と施行されていくなか、同一労働同一賃金に関する法律の施行日も、2020年4月1日に迫ってきています(中小企業における「パート有期労働法」については2021年4月1日)。
■働き方改革が待ったなしの”本当の理由”
そもそも、どうして政府はこんなに働き方改革を推し進めているのでしょうか。理由はシンプル、『労働者の働き方を変えなければ、日本経済そのものが成り立たなくなるから』です。
日本では、世界でも類を見ない急激な少子高齢化が進み、労働力人口も減少の一途。既にその影響が出始めています。人手不足、営業時間の短縮、サービスの低下、事業の縮小・廃止、人件費の高騰、長時間労働→生産性の低下、健康被害の発生などです。
すべてがからんだ負のスパイラルとなって日本経済を低下させていく前に、業務の効率化、労働時間や無駄な残業の減少、生産性の向上、多様な人材の登用、高度な能力や技術の活用、国際化に対応するなどしていく必要があります。そのための方法を総称したものが、待ったなしの『働き方改革』です。
外国人労働者や技能実習生の増加、24時間営業店舗の営業時間の短縮、銀行窓口やATMの合理化など、様々な対応がニュースでも多く取り上げられるようになった気がしませんか。
■「同一労働同一賃金」が重要である”本当の理由”
賃金は「人」ではなく「仕事」につくため、同じ仕事であれば同じ賃金を得られるようになること。
賃金に違いがあったとしても、不合理ではないこと。
先ほど、「世界でも類を見ない急激な少子高齢化が進み、労働力人口も減少の一途」と述べました。
この人手不足を補うためには、多様な人材の受け入れ、女性やシニアの活躍を促進することや、労働生産性の引き上げ、低生産性産業から高生産性産業への人材移動などが「不可欠」なことは皆わかっています。
でも、同じ仕事でも雇用形態によっては同じ賃金となりにくい従来の日本型雇用システムは、その「不可欠」に対応できません。対応できるようにするための方策のひとつが『同一労働同一賃金』です。
つまり、これを実現することで、ひいては少子高齢化・労働力減少社会に対応していくことになります。
ただし、従来より働き方の選択肢が増えたり人材移動が活性化することは、今まで学校任せ、会社任せにしてきたキャリア形成や能力開発を、今度は労働者ひとりひとりが主体的に行う必要があります。
現在、学校教育や大学受験システムが「自分で考え、判断し、協働していける人材育成」に方向転換しようとしているのは、そのためです。そして、採用する側にもその現状を受け入れ、対応する能力が求められています。
■「同一労働同一賃金」を知る
「同一労働同一賃金」と言われても、具体的に何のことを言っているのかわからない、どうすればよいのかわからない、と感じている方も多いかもしれません。しかし、「知らなかった」「聞いたことがなかった」と、何もしないまま施行日を迎えてしまえば、違法状態を放置してしまうおそれがあります。
対象となる労働者とは~パート有期労働法~
同一労働同一賃金のための法律は、パートタイム・有期雇用労働法と、労働者派遣法です。
改正されたパートタイム・有期雇用労働法は、どのような労働者を対象としているのでしょうか。
■「通常の労働者」とは
この法律の対象者は、法律名そのままですが、パートタイム労働者と有期雇用労働者です。そして、パートタイム労働者・有期雇用労働者の待遇が、「通常の労働者」の待遇とどう違うのかを比較します。
では「通常の労働者」とは何でしょうか。
「通常の労働者」とは、パートタイム労働者や有期雇用労働者と同一の事業主に雇用される正社員=無期雇用フルタイム労働者です。「無期雇用」で「フルタイム」ですから、事業主との間で期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者をいいます。
「通常の労働者」の中にも、総合職・一般職・限定正社員など様々な雇用管理区分がありますが、それらすべての通常の労働者と、パートタイム・有期雇用労働者との間で、不合理な待遇差を解消する必要があります。
■正社員間の待遇差は、この法律の対象となる?
例えば、総合職と一般職と限定正社員、これらの間に待遇差があったとしても、「通常の労働者」である無期雇用フルタイム労働者同士の間での待遇差なので、この法律の対象とはならないことに注意が必要です。
この法律では、あくまでも「通常の労働者」と「パートタイム・有期雇用労働者」との間の待遇差が対象となります。
不合理な待遇差の禁止、差別的取り扱いの禁止
■「不合理な待遇差の禁止」「差別的取扱の禁止」とは?
「同一労働同一賃金」といっても、具体的にどんなことなの?とイメージしにくいですよね。
「同一労働同一賃金」とは、会社の中で仕事、業務の内容が同じであれば、賃金も同じにしなさい」、という考え方です。
「同じ」と一言でいっても、仕事内容が同じなら待遇も同じにする、という「平等」的考えを「均等待遇」といい、待遇に差異があるが合理的な差異です、という「公平」的考えを「均衡待遇」といいます。
| 均等待遇規定 (差別的取扱いの禁止) | 下記2点が同じ場合、差別的取扱いを禁止します。①職務内容(業務の内容+責任の程度)②職務内容・配置の変更の範囲 |
| 均衡待遇規定 (不合理な待遇差の禁止) | 下記3点の違いを考慮した上で、不合理な待遇差を禁止します。①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲③その他の事情 |
■どんなことが、不合理な待遇差、差別的取り扱いとなる?
「差別的待遇の禁止」とは、同じくらいの能力を持った人が、同じ業務をしているのであれば、その人が、正社員か、契約社員か、パートさんか、によって賃金などの待遇に差をつけてはいけないということです。
「不合理な待遇の禁止」とは、同じ仕事をしているAさんとBさんの待遇に差があるのであれば、その差はその能力や働く時間分だけでなければならない。正社員、パートなど、雇用の形態によってついた差であってはならない、ということです。
同じ業務をしていても賞与は正社員にしか支給されない、正社員は皆勤手当てがつくが、契約社員にはつかない、というケースなど今までは慣例的に行われきましたが、今後は「差別的待遇」「不合理な待遇」と判断されるケースも出てきます。
どうすれば適法になるのか? ガイドライン概要
もし現在、正社員・契約社員・パート社員などの雇用区分によって「差別的取扱」や「不合理な待遇差」が既にあるとしたら、その違法状態を適法状態に変えていかなければなりません。
■同一労働同一賃金ガイドライン
では実際、何をどう変えていけばよいのでしょうか。
その内容を具体的に示しているのが、『短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針』、略して「同一労働同一賃金ガイドライン」と呼ばれています。
このガイドライン(指針)は、「不合理な待遇差」が存在する場合に、どのようなものが不合理なのか、不合理ではないのか、原則となる考え方や具体例を示しています。
例えば、基本給、昇給、賞与、役職手当・通勤手当・家族手当などの各種手当はもちろん、教育訓練や福利厚生等についても記載されています。
裏を返せば、同一労働同一 ”賃金” と言いつつ、待遇差が禁止されるのは ”賃金” だけでなく、教育訓練や福利厚生にも及ぶ、ということです。
「同一労働同一賃金って、同じ仕事なら給料を同じにしなさい、っていうことじゃないの?」というつぶやきが聞こえてきそうですが、賃金はもちろん、賃金以外でも対応が求められています。
どうすれば適法になるのか? 基本給・賞与
各手当等において具体的にどのような取扱が不合理となるのか、同一労働同一賃金ガイドラインの内容を確認してみましょう。
■基本給
(1)労働者の能力又は経験に応じて支給
(2)労働者の業績又は成果に応じて支給
(3)労働者の勤続年数に応じて支給
基本給であって、上記(1)~(3)に当てはまるものがある場合、それぞれに応じた部分において、正社員と非正規社員を比較して、同一であれば同一の、一定の相違がある場合には、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
【具体例~(1)のケース】
・定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある正社員が、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務内容及び勤務地に変更のない短時間勤務の労働者に助言を受けながら同じ業務をする場合、正社員の基本給を高く設定していても問題とならない。
・正社員Xが非正規社員Yよりも多くの経験を有することを理由として、Xの基本給を高く設定しているが、Xのこれまでの経験は現在の業務に関連性を持たない場合は、問題となる。
【具体例~(2)のケース】
・正社員Xと非正規社員Yは同じ仕事をしてるが、Xは生産効率等の目標値に責任があり、目標達成できない場合は不利益を課されており、一方Yには目標値に対する責任がない場合、Xの賃金をYよりも高く設定することは問題とはならない。
【具体例~(3)のケース】
・労働者の勤続年数において基本給を支給している場合、有期雇用Yに対し、労働契約の開始時からではなく、現時点での労働契約の期間のみにより勤続年数を評価して支給している場合は、問題となる。
また、昇給について、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについても、その部分については正社員と同一の昇給を行なうこと(勤続による能力の向上に一定の相違がある場合は、その相違に応じた昇給を行なうこと)とされています。
さらに、正社員と非正規社員との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合、「通常の労働者(正社員)と短時間・有期雇用労働者(非正規社員)との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の、主観的又は抽象的な説明だけでは足りない、とされています。
つまり、例えば「正社員には店舗の売り上げに責任があるが、パートには責任がない」といった、違いを設ける具体的な理由を挙げていく必要があります。
■賞与
会社の業績等への貢献度に応じて支給するものについては、正社員と非正規社員の貢献が同じである場合、貢献に応じた部分については、同一の支給をしなければならない。一定の相違がある場合には、その相違に応じて支給しなければならない。
【具体例】
会社業績への貢献等を考慮して賞与支給を行なうと謳っている会社において、正社員には全員なんらかの支給をしているが、非正規社員には全く支給していない場合は、問題となる。
基本給、賞与の項目だけ見ても、業務の内容や責任の重さ、評価の基準等をはっきりさせ、違いを設ける理由を明確にする必要があることが読み取れます。
■対応のための参考資料
さらに踏み込んだ点検・検討マニュアルも厚生労働省から公表されています。
◆同一労働同一賃金特集ページ(厚生労働省)
◆不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル
◆パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書
とはいえ、これを読み解き、理解して対応するには、一定の労力と時間が必要です。
賃金のしくみを一気に変えることは難しいかもしれません。
それでも、もし違法状態が疑われるのであれば、自社なりのゴール(適法状態)・それまでの期間・移行スケジュールを定めることがポイントです。
今の状態になるまでには、会社の歴史・経緯・事情があることと思います。
今後はそれに加えて、単純に法律改正に合わせてしくみを変えるだけでなく、事業主さまの描く『会社の未来図』をしくみに加えていくことが重要です。
そのためには、まず自社の状態を把握し、変えなければならないことをあぶりだすことが必要になります。
どうすれば適法になるのか? 役職手当・精勤手当
■役職手当
役職の内容、責任の範囲・程度に対して支給しようとする場合、通常の労働者と同一の内容の役職・責任に就く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなければならない。
→役職手当を、役職のないように対して支給している場合に、全く同じ役職名・役職・責任の範囲を持つ労働者でありながら、短時間労働者へ役職手当を低く支給することはできません。
(問題とならない例)
【イ】 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、 通常の労働者であるXの役職と同一の役職名(例えば、店長)であって同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職に就 く有期雇用労働者であるYに対し、同一の役職手当を支給している。
【 ロ】 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、 通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の 役職に就く短時間労働者であるYに、所定労働時間に比例した役職手 当(例えば、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者にあ っては、通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。
■精勤手当・皆勤手当
通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。
(問題とならない例)
A社においては、考課上、欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、 そのことを待遇に反映する通常の労働者であるXには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、考課上、欠勤についてマ イナス査定を行っていない有期雇用労働者であるYには、マイナス査定 を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。
どうすれば適法になるのか? 通勤手当・時間外手当
各手当について、何が「同一」でなければならないのか、どのようなケースでは例外が認められるのかを確認していきましょう。
■通勤手当
『短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。』
パート労働者だからといって、電車の運賃が正社員より割引になることは、一般的にはありませんよね。
したがって、通勤手当は、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者とは同一でなければなりませんが、以下のような例は問題ないとされています。
(問題とならない例)
【イ】 A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費 の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用 である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができな いところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している。
→本社採用と店舗採用とで、採用エリアが異なるために、エリアに合わせた『交通費の上限』が元々設定されていたケースです。店舗採用の従業員が、本人都合でエリア外に引っ越したために交通費が上がって、上限を超えてしまったとしても、それは元の上限の範囲内しか支給しなくてもよいですよ、という例外です。
【ロ】 A社においては、通勤手当について、所定労働日数が多い(例えば、 週4日以上)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、所定労働日数が少ない (例えば、週3日以下)又は出勤日数が変動する短時間・有期雇用労働者には、日額の交通費に相当する額を支給している。
→労働者の所定労働日数によって、定期券支給であったり、日額の実費支給だったり、というケースです。必要な交通費の支払方法の違いであって、この違いは問題ないとされています。
■時間外手当
『通常の労働者の所定労働時間を超えて、通常の労働者と同一の時間外労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者の所定労働時間を超えた時間につき、通常の労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならない。』
→時間外労働の割増率等は、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者とは同一でなければなりません。
■深夜労働または休日労働手当
『通常の労働者と同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の割増率等で、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給しなければならない。 』
→上記の時間外労働と同じく、割増率等は短時間・有期雇用労働者と通常の労働者とは同一でなければなりません。
以下のような例にも注意しましょう。
(問題となる例)
A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、深夜労働又は休日労働以外の労働時間が短いことから、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当の単価を通常の労働者より低く設定している。
どうすれば適法になるのか? 福利厚生など
「同一労働同一賃金」として、不合理な待遇差が禁止されるのは ”賃金” だけでなく、福利厚生や教育訓練等にも及んでいます。
■福利厚生
(1)福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室をいう。)
(2)転勤の有無等の要件が同一の場合の転勤者用社宅
(3)慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給の保障
これら(1)~(3)については、通常の労働者と同一の事業所で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の利用・付与を認めなければならない。
→転勤者用社宅については、その支給要件をあらかじめ明確にしておくことが重要です。
■その他手当(一部抜粋)
○教育訓練
教育訓練であって、現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施するものについて、通常の労働者と職務の内容が同一である短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の教育訓練を実施しなけ ればならない。また、職務の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた教育訓練を実施しなければならない。
→正社員と同じ職務ではない短時間・有期雇用労働者であっても、教育訓練をしなくてよいわけではないことに注意しましょう。違いに応じた対応が必要です。
○食事手当(労働時間中の休憩中の食事に対する手当)
短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。
○退職手当、住宅手当・家族手当等
→ガイドラインでは示されていませんが、不合理な待遇差を認めているわけではありません。均衡・均等待遇の対象にはなっています。
相違が解消されるよう、各事業主において、労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれています。
以上のような手当名に限らず、個々の手当ごとに判断されることに注意が必要です。実際に待遇差が不合理か否か争われた場合、最終的には司法(裁判)においても、個別ケースごとに判断されることになります。
チェックの手順
パートタイム・有期雇用労働法に対して適法状態にするための手順書が、厚生労働省から公表されています。
◆『パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書』
■事業主に求められること
同一労働同一賃金への対応のゴール(適法状態)は以下のように考えられます。
(1)不合理な待遇差を設けない
同じ企業で働く正社員と短時間労働者・有期雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当などあらゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止されます。
(2)事業主の説明義務への対応
事業主は、短時間労働者・有期雇用労働者から、正社員との待遇の違いやその理由などについて説明を求められた場合は説明をしなければなりません。
■チェックの方法
手順1 労働者の雇用形態の確認
→短時間労働者や有期雇用労働者を雇用しているか?
手順2 待遇状況の確認
→短時間労働者・有期雇用労働者の区分ごとに、賃金や福利厚生などの各待遇について、正社員と取扱いの違いがあるかどうかを書き出す。
手順3 待遇に違いがある場合
→待遇に違いを設けている理由を確認する。(例:働き方、仕事内容、役割、責任など)
手順4 待遇の違いが「不合理ではない」ことを説明できるよう整理する
→短時間労働者・有期雇用労働者、それぞれ正社員との間に待遇の違いがある場合は、その違いが「不合理ではない」ことを労働者に説明できるよう、文書にしてまとめておくと便利。
■待遇差があるとわかったら?
手順5 法違反が疑われる状況からの早期脱却を目指す
→手順4の結果、説明がつかず「待遇差は不合理ではない」と言い難い場合は、改善に向けて検討を始める。「不合理ではない」といえる場合は、より望ましい雇用管理への改善を検討する。
手順6 改善計画の作成・実施
→改善の必要がある場合は、労働者の意見も聴取しつつ、パートタイム・有期雇用労働法の施行(2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日)までに、計画的に取り組む。急激に変更することが難しくても、ゴールを見据えて計画的に移行していくことが重要。
「待遇差」はあるけれど、その待遇差が不合理ではなく、待遇差の根拠を明確に説明できるということが求められています。
ガイドラインは公表されていますが、実際に待遇差が不合理か否か争われた場合、最終的には司法(裁判)で個別ケースごとに判断されることになります。待遇差に関する訴訟も増えつつある中、早めの対応を行っていきたいものです。
対象となる労働者とは ~労働者派遣法~
派遣労働者についても、同一労働同一賃金の対象となります。どういうことになるのか、確認してみましょう。
■対象となる派遣労働者
現行では、派遣労働者と派遣先労働者の待遇差に関することについては、配慮義務にとどまっていました。
今回の労働者派遣法の改正により、この待遇差に関する整備が義務化されます。
労働者派遣法の対象は、すべての派遣労働者です。
つまり、労働者派遣を行なっている会社はもちろん、派遣労働者を受け入れているすべての会社にもかかわる法改正、ということになります。
■改正内容
次の事項が義務化されます。
◎下記いずれかの、待遇差に関する整備を確保すること
(1)派遣先の労働者との均等・均衡待遇
(2)一定の要件を満たす労使協定による待遇
◎派遣先事業主に、派遣元事業主が上記(1)(2)を順守できるよう、派遣料金の額の配慮を義務化
また、均等・均衡待遇既定の解釈の明確化のため、ガイドライン(指針)を策定し、根拠を規定しています。
改正された労働者派遣法の施行日は、2020年4月1日とされており、中小企業に対する猶予もありません。
どうすれば適法になるのか? 派遣先均等・均衡方式
派遣労働者における同一労働同一賃金の原則的な方法である「派遣先均等・均衡方式」について確認していきましょう。
■派遣先均等・均衡方式とは
派遣労働者について同一労働同一賃金を考えるうえで、原則とされているのがこの「派遣先均等・均衡方式」です。
派遣労働者と派遣先労働者について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情を比較して、同一の場合は同様の待遇に扱い、差がある場合には、不合理なものであってはならない、とされるものです。
パート有期法における、正社員と非正規労働者との比較と同じことを、派遣先正社員と派遣労働者においても行う、ということですね。
■実務的には
派遣先均等・均衡方式では、派遣先ごとの待遇情報の提供を受ける必要があります。
喜んで自社の事情を派遣会社に事細かに説明する、といった会社は多くはないと思われますし、この作業を派遣先ごとに行なうのは大変な労力かと思います。
そこで、例外として労使協定方式が認められています。
どうすれば適法になるのか? 労使協定方式
今回は、派遣法の改正で、派遣労働者と派遣先労働者の待遇差について、不合理な待遇差をなくすための確保措置のもう一つの方式、「労使協定方式」について確認していきましょう。
■労使協定方式とは?
派遣労働者と派遣先労働者の不合理な待遇差をなくすための確保措置として取るべき原則は、前回のメルマガでお話した、「派遣先労働者との均等・均衡方式」です。一方で、改正労働者派遣法では「労使協定方式」という、別の方式での確保措置も許されています。
「労使協定方式」とは、派遣元の会社と労働者とが、労使協定を結び、「政府の定める一定の客観的な指標に基づいた派遣労働者の待遇」に沿って、派遣労働者の待遇を決定します決める、ということにすれば、個別の派遣先から賃金データをもらって、その都度均衡を図る必要は無い、という形です。
■労使協定方式のメリット
「労使協定方式」で待遇を決めると、政府の求める、派遣労働者の賃金を、全国平均と比較しての同一労働・同一賃金で実現できることになります。
派遣元・先の間では、派遣元の担当者が派遣労働者の派遣先に逐一その会社の賃金データなどの取り寄せを依頼したり、派遣先の担当者が派遣元に積極的に開示したくない賃金データを渡したりといった、わずらわしさがない、という実務上のメリットがあります。
また、派遣労働者本人にとっては、派遣先が変わる都度賃金が変わる、という不安定な状態より、賃金が一定となり、収入が安定したほうが、生活の安心につながりますね。能力があがったりできることが増えたりでキャリアアップしたはずが、派遣先が変わったことで賃金が下がってしまう、という現象も起きません。
不合理な待遇差をなくすための確保措置として、「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」、二つの方式を理解したうえでいずれかを選択することになりますが、現実的には、実務上運用がしやすい「労使協定方式」を選択する事業主が多くなると考えられています。その場合は、政府が定める全国平均の賃金データを確認したり、労働者代表に待遇差改善の措置について説明したりするなどして、労使協定を結ぶ準備を進めていくことになります。
派遣「先」事業主が講ずべき措置
2020年4月1日以降、派遣社員を受け入れる側である派遣「先」事業主には何が求められるのでしょうか。
『派遣先事業主が講ずべき措置』を見ていきます。
■派遣料金の交渉における配慮
派遣先は、派遣料金について、「派遣先均等・均衡方式」又は「労使協定方式」による待遇改善が行われるよう配慮しなければなりません。
この配慮は、労働者派遣契約の締結又は更新の時だけではなく、締結又は更新がされた後にも求められるものです。
■教育訓練
派遣先は、派遣先の労働者に対して業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施する場合に、派遣元事業主から求めがあったときは、派遣元事業主が実施可能な場合等を除き、派遣労働者に対してもこれを実施する等必要な措置を講じなければなりません。
■福利厚生
派遣先は、派遣先の労働者が利用する以下の福利厚生施設については、派遣労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません。
・ 給食施設
・ 休憩室
・ 更衣室
派遣先は、派遣先が設置・運営し、派遣先の労働者が通常利用している物品販売所、 病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設等の施設の利用に関する便宜の供与の措置を講ずるよう配慮しなければなりません。
■派遣「元」事業主への情報提供
派遣先は、段階的・体系的な教育訓練、派遣先均等・均衡方式又は労使協定方式による待遇決定及び派遣労働者に対する待遇に関する事項等の説明が適切に講じられるようにするため、派遣元事業主の求めがあったときは、派遣先に雇用される労働者に関する情報、派遣労働者の業務の遂行の状況その他の情報であって必要なものを提供する等必要な協力をするよう配慮しなければなりません。
■派遣「先」管理台帳の記載事項
受け入れる派遣労働者ごとに派遣先管理台帳に記載すべき事項に、次の内容が追加されます。
・ 協定対象派遣労働者であるか否かの別
・ 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
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派遣労働者を受け入れることに、今まで以上の待遇や配慮が求められるようになります。
当然ですが、コストの増加も予測されます。
今後も今まで同様に派遣労働者を受け入れ続けるか、自社の社員を育成するのか、ほかの方法を検討するのか、どの選択が適切かは千差万別ですので、業務の状況や人事制度なども鑑みつつ、今一度考える必要があります。
また派遣先管理台帳の記載事項の改正は、この2項目を記載するためには内容の理解、検討、準備が必要であり、安易に書けばよいものではありません。時間がかかることが予想されるため、派遣料金の決定方式と合わせ、早めの対応が必要です。
『雇入れ時』の説明義務、説明方法
法改正に伴い、非正規労働者への待遇に関する説明義務が強化されることになります。
具体的にどういったことをしなければならないのか、確認してみましょう。
■改正内容
待遇に関する説明義務の対象は次の内容があります。
(1)待遇内容(雇い入れ)
賃金、福利厚生、教育訓練などについて、雇い入れ時に説明をする必要があります。
(2)待遇決定に際しての考慮事項
非正規労働者から求めがあった場合に、待遇を決定した際にどういうことを考慮したかを説明する義務があります。
(3)待遇差の内容・理由
非正規労働者から求めがあった場合に、通常の労働者(正社員等)との間にどういう待遇差があるのか、その理由も含めて説明しなければなりません。
(1)(2)に関しては、パートおよび派遣については改正前から説明義務がありましたが、法改正により有期雇用労働者も対象となることとなりました。(3)は新たに設けられたものです。
■雇い入れ時の説明義務、説明方法
雇い入れ時に説明すべき内容としては次が挙げられます。
・非正規労働者の待遇について、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けていない、差別的な取扱をしない旨
・賃金の決定方法
・教育訓練の実施
・福利厚生施設の利用
・通常の労働者への転換を推進するための措置
説明方法としては、口頭により説明を行うことが原則ですが、説明すべき事項が漏れなく記載され、容易に説明できる内容の文書を交付すること等によることも可能です。また、口頭による説明の際に、説明する内容等を記した文書をあわせて交付することが望ましい、とされています。
『説明を求められたとき』の説明義務等
労働者への待遇差の説明義務は、「雇い入れ時」に加えて、雇用後、随時説明を求められたときにも発生します。
■『説明を求められたとき』の説明義務ってどんな義務?
非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)が、自分の待遇が正社員と違う、ということで疑問を持つことがあった際に、「正社員との待遇差の内容や理由」について説明を求めることができるようになり、一方事業主は、非正規雇用労働者から説明を求められたら、説明する義務を負うことになります。
これは、「パートタイム・有期雇用労働法」の改正により、新たに事業主に義務化されました。
■何を説明するの?
正社員とパートの方、有期雇用の従業員の方と、待遇に差があっても、今まではそれがなんとなく当たり前、だと思っていませんでしたか?
「同一賃金同一労働」の取り組みの一つとして、正規雇用者と非正規雇用者との待遇差に合理的な理由がなければ、差をつけることができなくなります。
説明義務とは、その待遇差の合理性を裏付ける意味で、「待遇を決定した際にどういうことを考慮したか」「どんな待遇差があって、その差がある理由はなにか」を、従業員に説明を求められた際には、事業主は説明できなければなりません。
そのためにも、自社の給与規定、福利厚生規定を見直し、合理的な説明ができない様な規定があれば、是正しておく必要があります。
説明がなかったり、内容に合理性がなかったりする場合、訴訟にも発展する可能性もあります。しっかり準備しておきましょう。
行政ADR
「行政ADR(裁判外紛争解決手続)」という言葉をご存じでしょうか。
行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する手続きのことをいいます。
働き方改革が目指す「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」のために、今回の法改正で行政による事業主への助言・指導等や行政ADRの規定が整備されます。
■具体的にどういう制度?
訴訟によらない紛争解決方法です。
裁判をするよりも、もっと柔軟に紛争解決をはかることができる制度として注目されています。
都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。
「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象となります。
ADRによる解決方法には、「あっせん」「調停」「仲裁」が挙げられます。
■どういう特徴があるの?
行政ADRの特徴として、次のようなものが挙げられます。
・解決までの過程が非公開で行われ、結論も原則として公開されない
・日程調整が柔軟にでき、迅速に解決を進めやすい
・専門的な知識を持った第三者に関わってもらいながら解決を求めることができる
・費用を抑えることができる
この改正法の施行期日は2020年4月1日です。
紛争に至らないことが一番かと思いますが、こういった制度があることを押さえておくといいかもしれません。
