方式を決定しないとどうなるか
今回の法改正では、派遣労働者の同一労働同一賃金を実現するため、以下の2つの方法のいずれかによって待遇を決めることが義務化されました。
■方法は2つ
派遣労働者の待遇は、
〇派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を図る方式(派遣先均等・均衡方式)
〇派遣元における労使協定に基づいて待遇を決定する方式(労使協定方式
のいずれかの方式によって決めなければなりません。
■方式を選択・決定せずに放置した場合
もし、派遣元・派遣先事業者が、2020年4月1日までに、このいずれかを選択せずに放置した場合、自動的に「派遣先均等・均衡方式」を選択した、とみなされます。
労使協定に不備があった場合も同じです。
この2つの方式、手順も取り扱う情報量も大きく違います。
では、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
簡単に言うと、派遣先の賃金水準になるか、統計に基づいて就業しているエリアの賃金水準になるか、の違いです。
■派遣先均等・均衡方式
派遣労働者と派遣先労働者について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情を比較して、同一の場合は同様の待遇に扱い、差がある場合には、不合理なものであってはならない、とされるものです。
パート有期法における、正社員と非正規労働者との比較と同じことを、派遣先正社員と派遣労働者においても行う、ということですね。
「派遣先労働者」と比較するわけですから、派遣先から賃金を含めた全待遇情報をもらわなければなりません。
また、派遣先企業の比較対象労働者の賃金水準が、現在の賃金額より高額な場合でも、その差が不合理でない水準にしなければなりません。
■労使協定方式
「労使協定方式」とは、派遣元の会社と労働者とが、労使協定を結びます。
政府に定められた統計情報を使用し、その職種、その地域等の「一般賃金」を算出するほか、派遣元事業者と派遣労働者との間の協定によって、派遣労働者の待遇を決定します。
そうすれば、個別の派遣先から賃金データなどの待遇情報をもらって、その都度均衡を図る必要は無い、という形です。
ただ、派遣先でないとわからない、食堂などの福利厚生等については、派遣先から情報をもらうことになります。
どちらが、手間がかかるのか。
派遣先従業員の賃金を、派遣元に提供しなければならないのはどちらか。
どちらが、派遣労働者にとって賃金やキャリアに連続性があるか。
選択しなければなりませんし、方式の選択後も準備には時間がかかります。
しかし、労使協定を選択したい場合、2020年3月31日までに締結する必要があります。
情報提供の比較対象労働者
待遇決定方式が【 派遣先均等・均衡方式 】【 労使協定方式 】 のいずれの場合も、派遣先は、労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ、派遣元事業主に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供しなければなりません。
では、比較対象労働者とは、一体どのような労働者でしょうか。
■比較対象労働者とは
派遣先が、次の①~⑥の優先順位により「比較対象労働者」を選定します。
①「職務の内容」と「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者
②「職務の内容」が同じ通常の労働者
③「業務の内容」又は「責任の程度」が同じ通常の労働者
④「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者
⑤①~④に 相当するパート・有期雇用労働者 (短時間・有期雇用労働法等に基づき、派遣先 の通常の労働者との間で均衡待遇が 確保 されていることが必要)
⑥派遣労働者と同一の職務 に従事させるために新たに通常の労働者を 雇い入れたと仮定した場合における当該労働者
社会人になったばかりの新卒労働者と、社会人経験が何十年もある管理職クラスとを比べるわけにはいきませんよね。
比較するのに適切な労働者と比較しなければなりません。
そのための判断基準が上記です。
待遇提供する待遇内容とは
待遇決定方式が【 派遣先均等・均衡方式 】【 労使協定方式 】 のいずれの場合も、派遣先は、労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ、派遣元事業主に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供しなければなりません。
「比較対象労働者」に続き、その労働者と比較した、どのような待遇情報を提供しなければならないのかについては次の通りです。
■提供する「待遇に関する情報」とは
派遣先均等・均衡方式の場合
①比較対象労働者の職務の 内容、職務 の 内容及び配置の変更 の範囲並びに雇用形態
②比較対象労働者を選定した理由
③比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨を含む。)例:基本給、賞与、役職手当、精皆勤手当、通勤手当、出張旅費、食事手当、退職手当、住宅手当、家族手当、慶弔休暇、教育訓練など
④比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
⑤比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項
労使協定方式の場合
①派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練(法第 40 条第2項の教育訓練)
②給食施設、休憩室、更衣室(法第 40 条第3項の福利厚生施設)
労使協定方式は、基本的に統計情報から得られる賃金水準をもとに協定を締結しますが、派遣先でなければわからない情報もあります。たとえば社食や休憩室、更衣室やロッカー、などです。
それはさすがに教えてもらわなければわかりませんね。
なお、派遣元事業主は、派遣先から情報提供がないときは、派遣先との間で労働者派遣契約を締結してはいけないことに、注意が必要です。
待遇情報の取扱い上の留意点
【派遣先均等・均衡方式 】【労使協定方式 】 のいずれの場合も、派遣先は、労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ、派遣元事業主に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供しなければなりません。
派遣先から派遣元事業主に提供された情報の取扱いについては、次の事項に留意する必要があります。
■個人情報について
①当該情報のうち個人情報に該当するものの保管及び使用
→ 派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保等の目的の範囲に限られること。
■個人情報以外について
②当該情報のうち個人情報に該当しないものの保管及び使用
→ 派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保等の目的の範囲に限定する等適切な対応が必要であること。
■守秘義務
③この情報は、法第24条の4の秘密を守る義務の対象となること。
→派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業員は、正当な理由がある場合(本人の同意がある場合、他の法益との均衡上許される場合等)でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないこととされています。(派遣元事業主等でなくなった後においても同様。)
たとえ個人情報ではなくても、勤続年数や職務内容によって個人が想像できてしまうこともあるかもしれません。
派遣先労働者の賃金を含む待遇を取り扱う『派遣先均等・均衡方式』を採用する場合は、特に注意が必要です。
待遇見直しの際の留意点
さて、派遣労働者の同一労働同一賃金を実現する方法を選択し、派遣先から待遇情報を受け取ったのち、方式ごとに定められた方法で、実際に待遇を確認・見直しをすることになります。
実際に確認・見直しを行う際に、留意することがいくつかあります。
■財源の確保
派遣労働者の待遇を見直す際に、原資(財源)を新たに確保することが必要になることがあります。
原資を捻出する方法は、生産性の向上を図る業務効率化のほか、派遣料金の引き上げ等が考えられます。
待遇にかかわる制度の見直しや、派遣先との派遣料金の交渉などが必要となることもありえます。
これらは時間がかかる取り組みとなるので、早めに取り掛かることが必要です。
■労働条件の不利益変更(待遇の引き下げ)への十分な注意
不合理な待遇差の解消を行うにあたって、基本的に労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げること(不利益変更)を行う場合の留意事項があります。
労働契約法9条
原則として、労働条件の不利益変更には労働者の合意が必要。
労働契約法10条
就業規則の変更により労働条件を変更する場合は、以下の事項に照らして合理的なものであること。
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
・その他の就業規則の変更に係る事情
・変更後の就業規則を労働者に周知させること。
